最近のNHKの、ほとんど畳み込むような、うつ関連の番組の連発には敬服するしかない。
今回は、のっけから、
「うつ病は心の風邪」
という、あの、よく使われるキャッチフレーズに対して、実際の鬱病の患者さんたちの多くが、いかに違和感を感じているかを、調査結果に基づき紹介することから開始した点は買いたい。
つまり、「ツカみはOK!!」だったとは思います(^^)
なぜなら、うつ病の治療は、風邪薬を飲んで静養していれば、特別な場合を除いて、長期の場合でも1,2週間で回復するようなわけにはいかない。
何回も途中で調子を崩したり入院したりして、数年以上闘病している人もたくさんいるからである。
私も、この、「心の風邪」という言い方がはっきりいって嫌いな人間である。
この番組では、この言い方は、「誰もが欝になる可能性がある」ということ以上に、
「病院の門をくぐるまでに迷ってしまう人たちに、早期に受診してもらうため」
のキャッチフレーズであるに過ぎないことを強調していた。
もとより精神科や心療内科に通い始めることを躊躇したまま頑張っていると、欝の回復が長引いてしまうことは確かだ。
「このくらいのことでホントに病院に行ってもいいのか?」と迷いを感じるくらいのタイミングで受診するほうが、経過はいいのである。
このことは、「こころ相談.com」の私へのインタビュー記事でも述べさせていただいたとおりである。
・・・・・しかし、やはり思う。
もはや、「うつ病は、心の風邪」というキャッチフレーズよりも、もっとましなものが普及すべきであるとは。
私ならば、例えば、
「無理のし過ぎで、脳が消耗しすぎて、脳のある特殊なエンジンオイルが切れて、脳のピストンも歯車も痛みかかっている状態です。そう簡単にはその特殊オイルを補給することもできないようなものでして、歯車やピストンも一度動かすのを止めて、メインテナンスに出して磨きなおす必要があります」
などと言ってみるかもしれない。
番組の前半は、この「心の風邪」という言い方への違和という問題を鍵として、相当な密度で展開して、満足度は高かった。
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医療ショック症状
SSRI、三環系、四環系抗うつ剤の持つ、「セロトニン再取り込み阻害」作用の仕掛けは、恐らく多くの鬱の患者さんにとっては、すでに十分知れ渡ったことをうまく噛み砕いて説明してくれているとしか感じられないかもしれない。
しかし、一般の人たちへの幅広い啓蒙という意味では、この番組恒例の「着ぐるみ」登場のバラエティのノリで、わかりやすく説明する役割を引き受けてくれたことには意味があるかもしれない。
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・・・・そうそう、パネラーの山瀬まみさんが、「なぜ心の風邪と呼ばれるか」という質問に、
「症状を抑える薬はあっても、根本を治す薬がないという点で風邪の治療薬に似ているから」
という、なかなか思いつけない答えをしていた点を買います。
答えが正しいかどうかではなくて、そういう着想をできることが得がたいセンスなんですよ。これは単なるヤラセではなくて、彼女の事前情報収集と感性の産物かと思います(^^)
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番組後半は、何かしら密度感が低下したようにも感じられたが、
●認知行動療法が、薬物療法や休息を経て、すでにかなりの程度の回復期に達した人においてはじめて効果を上げる可能性があること(私の知るところによれば、中程度以上に重い欝の人や、不安障害を伴う人への認知行動療法は、むしろ鬱を悪化させる場合もあるとも言われています)。
●運動や外出もまた、かなりの回復期になり、本人にも興味が出てきたタイミングで無理なく導入したほうがいいものであること(それは、体力回復のためというより、むしろ脳にいい刺激を与えて、神経伝達物質作用を高めるためであること。私見を言えば、番組で紹介されたような凝った体操でなくても、犬の散歩でも、自転車に乗って平衡感覚を刺激するのでもいいと思いますよ)
・・・・・これらを指摘していたことも評価したい。
一直線に、エレベーターを一気に登るような形で回復することを期待するのではなく、行きつ戻りつ、途中の「踊り場」で余裕を取り戻しながら、じっくり鬱と向き合う姿勢こそ、この番組が最終的に強調したかったことかと思えた。
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ただ、なぜなんでしょう???
にきびのための自然な御馳走メンツ
この番組、終わりの方まで観ていくと、鬱の人にとって、だんだんと気分が鬱になりかねない、すっきりしないものを淀ませるところがある気がします。
ひとつにはタイトルがよくないのでは?
「うつ病よサラバ!」????
・・・・・この番組の内容が伝えていたのは、実は、うつ病とは容易にはおサラバできないものなんだよ!! というメッセージになってしまったから。
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それと、あと数点、バラエティ番組に対しては要求水準が高すぎる、揚げ足取りを覚悟で数点言及すれば、
- この番組では、「NHKスペシャル」での場合と異なり、多剤処方の問題や誤診(殊に「双極性2型気分障害」・・・この場合、SSRIではなくて、抗てんかん薬系の気分スタビライザが主薬となることが多い・・・との鑑別診断のたいへんさ)の問題はきれいに素通りしていること。
- 欝のときにもらう薬のすべてが「抗うつ薬」ではない筈なのに、その点で早合点されるかもしれない(睡眠導入剤や抗不安薬、気分スタビライザーは「抗うつ薬」ではないのだから)
- 抗鬱剤の処方において、「副作用の少なそうな薬から、単剤処方で、ひとつずつ順に試していくのが標準的なやり方になっている(ひとつの薬あたり原則3ヶ月、薬によっては1ヶ月ほど使用中止して、他の薬に切り替える場合もある)」と述べられていたが、これは医療現場の現実とあまりにも遊離したものではないか。
腕のいいお医者さんだと、無意味な多剤処方は回避しながらも、診療のかなり早い段階から、複数の抗うつ薬を見事にカクテルにして出すことを現状でもできているものである(もっとも、SSRIを同時に2種類出すことをよしとしている「良いお医者さん」は滅多にいないはずとは言える)。
【第3版で追記】 なお、この「3ヶ月かかる」とした点について、この番組のことを指している� ��のとみて間違いない批判を、精神科医のkyupinさんがこちらで書いています。「確かにSSRIというのは効き目が遅いことが多い薬だが、希死念慮を抑える意味でも、幾つもの薬の試行錯誤などなく、できるだけ一発で効く薬をセレクトできるように全力を尽くすのが医師の務め」という、ごもっともな意見です。是非ご参照ください。
太りすぎの大人とうつ病
(はっきりと強調したいが、もし仮に病院にとって「扱いづらい」「トラブルメーカーな」患者さんというものが存在するとしたら、そうした患者さんを生み出すのに貢献したのは、その患者さんが受けてきた医療関係者やカウンセラー全体の責任に他ならない。
しかし、先代の治療者までの間に背負わされた患者さん(クライエントさん)の抱えた「負債」について、それまでの治療者を単に悪者にすることは� ��避すべきである(もっとも、先代までの治療者の「弁護」はしなくていいし、むしろそれに類する発言を不用意に鬱の患者さんにすることはいよいよタブーである)。
治療者は、決して安請け合いしてはならないし、自分の果たせる領分をしっかり見据えることが重要だが、しかし、コーディネーターとしての手腕を含めて、患者さん(クライエントさん)のために必要なことを、過去の治療体験のマイナス面を最低で「帳消し」にする水準での働きは迅速にできねばなるまい)
私が知る範囲では、ある種のてんかんの患者さんに海馬の萎縮が見られる問題と、どこかでクロスする形で、今後特定の遺伝的な因子が解明されていく可能性があるのではないかとも思える。
ただ、一部の視聴者� ��、この「海馬の萎縮」の問題と、この番組の今回のサブタイトルの「脳が変わる」という言葉が重なってしまい、無神経とすら感じさせてしまった可能性まで心配するのは、私の妄想し過ぎであろうか?
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いずれにしても、ここしばらくのNHKの鬱関連番組は、それらすべてを観てバランスが取れるような側面はやはりあると思う。それは、テレビ番組という媒体の宿命であろう。
【第2版で追加】
一晩明けてみたら、私が、この番組に感じていたモヤモヤが随分とはっきりと言葉になってきましたので、少し遠慮なく書いてみました。
この記事には、私の元クライエントさんから私に寄せられたこの番組への感想も反映しています(感謝)。
もし、まだ思いつくことがあれば、更に増補したいと思います。
●番組公式ホームページ
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* カウンセラーこういちろうによる、NHKの一連の鬱関連番組関連記事リンク集(すべて開業サイトバージョン):
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