関節炎診断のこつ
1) 臨床に必要な局所解剖、機能
関節構造
軟骨組織
軟骨組織として、硝子軟骨、線維軟骨、弾性軟骨がある。関節を構成する軟骨組織は硝子軟骨と線維軟骨である。組織を構成する成分として、細胞、線維、それに、その間を充填し細胞機能をコントロールする基質成分に分けられる。硝子軟骨は細胞成分として軟骨細胞、線維成分として2型コラーゲンや他の軟骨型コラーゲン、基質成分としてはプロテオグリカンであるが、特に軟骨特有の分子サイズの巨大なアグリカンや、その他の中、小分子サイズのプロテオグリカンなどが含まれている。基質成分のアグリカンは、分子サイズが大きくさらにヒアルロン酸と結合することにより、生体における最も巨大な分子となっている。分子内に陰性荷電として多くの硫酸基� �持ち、分子双極体である水分子を構造水として保存することが出来る。大量の水分子を含むことにより、その構造全体が膨潤する性質を持つようになる。一方線維成分としてのコラーゲンは、その膨潤する性質に対し構造を維持するように働く。関節機能に伴って構造水が組織より押し出されたり、元に戻ったりすることにより、酸素分子や成長因子等が軟骨細胞に到達する。さらに軟骨細胞は、細胞環境の変動に鋭敏に対応する。軟骨細胞の表面にてメカニカルストレスを認知し、そのシグナルに応じた細胞成分の産生を行うために、遺伝子発現の変動を通じて細胞の恒常性を保つ。軟骨代謝を反映するマーカーとして、主に軟骨に含まれる成分(COMPなど)を測定することにより、軟骨の破壊を推測することも行われている。
滑膜� ��関節包
滑膜や関節包は、関節の安定に関与するのみでなく、関節内環境の維持に重要な働きを持つ。この部で関節液が産生され関節内に分泌される。軟骨組織の恒常性に対し、関節液成分は大きな影響を与える。軟骨組織に障害が加った場合、軟骨組織より修復のシグナルが放たれ、滑膜関節包組織からは生理的な恒常性を保つため、種々の因子が関節液成分に添加される。更に、滑膜細胞の一部は軟骨分化を示す事が報告され、関節軟骨表層組織の修復に関与する。一方関節リウマチでは、全身よりの免疫を背景とする軟骨組織に対しての侵襲が生じ、軟骨組織障害性を示す蛋白分解酵素(MMP-3等)や炎症性サイトカインが分泌されることとなる。破骨細胞の分化、誘導、機能促進により、急速な関節組織の破壊を示すに至る。
2)問診のポイント
発症年令
小児期では股関節痛、特に化膿性関節炎を常に念頭に置いて治療する必要がある。股関節破壊を最小限に食い止めるため、迅速に対応することが求められる。学童期の股関節痛は単純性股関節炎があるが、疼痛が軽減しない場合にはペルテス病も考慮する。壮年期には外傷に伴う炎症や、痛風等が認められる。女性ではRAを認める。高齢発症関節リウマチの場合、骨脆弱性が伴っており、骨関節破壊が急速に進展する場合もあり経過観察に注意を要す。変形性関節症は、関節構成組織に退行性変性を認める場合を示すので、基本的にはどの年令にも発症が認められる。一般に進行は緩徐のものが多いが、股関節において臼蓋形成不全や骨脆弱性が伴った場合、急速に破壊が進行する症例� ��認める。より高齢では変形性関節症に併せ、腫瘍による疼痛も考慮する。大腿骨頭壊死の場合、その原因となる疾患によるが、膠原病によるものは比較的若年層に発症し、アルコール等によるものは壮年期に発症することが多い。
性別
どのように高血圧は動脈硬化につながるん。
関節リウマチは女性に多いとされるが、高齢発症では男性の比率が増加する。疾患の発現に関与する女性ホルモンの影響とも考えられる。変形性股関節症も女性に比較的多いが、二次性にて、先天性股関節脱臼、臼蓋形成不全等が原因であることが多い。痛風や、アルコール性大腿骨頭壊死は男性に多く、膠原病による大腿骨頭壊死は女性に多い。
経過期間
発症から外来受診までの期間は、疼痛、日常生活の障害程度によるところが多い。変形性関節症は緩徐に進行することも多く、長期間経過後受診することがある。関節リウマチは全身症状が伴い、疼痛が著明なため比較的短期間で受診することが多い。大腿骨頭壊死では、疾患は緩徐に進 行を示すことが多いが、急性疼痛で疾患を自覚することがある。痛風も激痛で発症するが、放置例でも疼痛の自然消褪を認めるため、受診が遅れることがある。
誘因
外傷等誘因が明らかな場合には診断は容易であるが、多くは明らかな誘因を認めない。大腿骨頭壊死の場合、疾患の発症とは別に、疼痛の発症誘因として、脆弱な骨組織が、微小な外傷により破綻が生じ、疼痛が出現することとなる。関節リウマチは、種々のストレスが発症の誘因となる。妊娠、出産等ホルモンの変動も発症の原因となる可能性がある。掌蹠膿疱症も扁桃の局所感染が原因とも考えられている。
居住地域
カシンベック病に代表される地域的な発症を認める疾患では、関節炎に関連する特有な物質を知る必要がある。飲料水の供給源や 、地域的に多く摂る食物、嗜好品も、注意深く問診を行なう必要がある。地方特有の伝染病、寄生虫病も関節炎症の原因となる。国内居住者に対しても、海外渡航経験など、一時期とどまった地域に関しても考慮する。HTLV感染症による関節炎は、比較的南に位置する居住者に多く発症する。
合併症
関節炎のみに捕われることなく、他科の疾患との関連で問診を行なうことも必要である。消化器疾患では、クローン氏病や潰瘍性大腸炎に、多発性関節炎を合併することが多い。原発性胆汁鬱滞性肝硬変でも関節炎の合併が認められる。皮膚疾患にて、乾癬症や、掌蹠膿疱症では関節炎の合併が多い。特に掌蹠膿疱症において、皮膚疾患としての手掌の皮疹は消退した後、足部のみに皮疹を認めることもあり、診察時は必ず足部も診� ��を行なうようにする。
罹患関節
関節リウマチでは、手指、足趾の小関節痛より発症することが多い。DIP関節のみが罹患することは少なく、PIP関節やMP関節の罹患が多く見られる。高齢者の女性では膝関節の罹患が多くなる。痛風は、特徴的な足趾第1趾MP関節の腫脹、疼痛が知られているが、他関節に発症することもある。腸疾患に伴う関節炎や、肝疾患に伴う関節炎では、脊椎症状の合併もある。
進展様式
変形性関節症は疼痛の増減は認めるも、罹患関節が移動を示すことは少ない。ただ隣接関節に影響する場合もあり、股関節に屈曲拘縮がある場合、脚長差を示す場合など、下肢にて特にアライメントの不正を示す場合隣接関節に影響を及ぼす。関節リウマチでは、初発関節は手部が多いが、疼痛、腫脹関節部の移� �が特徴的である。
家族歴、
遺伝性が認められる疾患では、家族歴が重要となる。慢性関節リウマチでは遺伝関連が認められるが、その他の因子の関与が多く、参考程度にとどめる。
薬物歴
背中の痛みの治療のためにホットまたはコールドパック
膠原病にて、ステロイド剤の長期投与、あるいはパルスとして大量用いた後、大腿骨頭壊死を発症することがある。しかし、全身的に血管炎が合併しており、疾患発症時すでに一部骨頭壊死が合併しているとの報告もあり、薬剤との関連を示すことは慎重を要す。血圧調節剤、結核治療薬で、血中尿酸値が上昇を示し、関節痛が発症することもある。
3)診察法とそのポイント
視診
腫脹
紡錘形の腫脹を示すか、棍棒状の腫脹を示すかは重要な所見である。関節リウマチでは関節を中心に腫脹を示すことが多いが、他の疾患によるものは、関節周辺全体に腫脹を示すことが多い。滑膜増生か、関節液の貯留による かも鑑別必要である。常に全体的に腫脹を示すとは限らず、内外側一方のみ腫脹を認める場合もある。靭帯損傷の場合には、一つの関節において非対称性の腫脹を認める。滑膜嚢炎では、関節腔の腫脹とは外観が異なり、それぞれの解剖学的位置を知っておく必要がある。ガングリオンには関節近傍に認められることがおおい。
発赤は、感染性関節炎や、痛風で多く認める。変形性関節症では、発赤を認めることは少ない。化膿性関節炎でも、高齢者では組織反応の低下により、著変を示さない場合もある。結節性紅斑も認められるが原疾患は多岐にわたる。紫斑は、悪性リウマチでは血管炎が合併し、血管脆弱性と相まって易出血性を示す。又特発性血小板減少性紫斑病で関節炎が合併することがある。
皮膚蒼白は、膠原病にお� ��てレイノー現象として認められる。我々はそのような症例では、外来診察において再現確認を行なっている。胸郭出口症候群を含め、血流障害、血管運動神経の障害も考慮する。変形を認める場合、手指では、DIP関節のみの罹患か、PIP,MP関節も含まれるか、関節構造の変形か、周辺軟部組織によるものかを検討する。関節リウマチでは、スワンネック変形やボタンホール変形など特徴的な変形を示す。
姿勢異常は脊椎脊髄病変によるものを先ず検討する必要があるが、股関節、膝関節に高度の変形が生じ、脚長差が出現すれば骨盤の傾斜を伴い、腰椎側弯が生じる。リウマチ因子陰性脊椎関節炎でも特徴的な姿勢を呈する。膝関節の屈曲拘縮でも、脊椎の変形が生じる。
触診
熱感は、関節リウマチ、感染 や痛風で多く、変形性関節症等ではさほど著明に認めない。
疼痛管理と薬物リハビリ
関節を触診した場合、滑膜の増生か、関節液の貯留か判別する。関節リウマチでも沈静化を認めれば滑膜は触知し得なくなる。圧痛により、関節のどの部分の罹患かも確認可能である。関節裂隙に圧痛を認めることが多いが、関節包付着部、靭帯付着部、滑液嚢部に圧痛を認める場合もある。可動域制限では、関節拘縮あるいは、関節強直を確認する。関節構成体のうち、軟骨組織によるものか、周辺組織の筋、靭帯、関節包皮下組織、皮膚のどの組織によるものか検討する。一方、関節リウマチに於て、ムチランスタイプでは、関節の不安定性が特徴的となる。神経障害は、関節の変形が進行した場合、変性した骨軟骨組織により、近傍を走行する神経の圧迫が生じ神� ��障害が進行する場合もある。また、血管炎が進行した場合、神経栄養血管の障害により神経症状が生じる。
跛行は下肢の障害によるものでは、荷重関節の病変により生じるが、常に脊髄神経症状による跛行を念頭に置く。関節リウマチでは、しばしば結節が認められる。治療の対象となることは少ないが、関節内に生じた場合、運動時痛の原因となる。皮膚疾患に基ずく関節炎では時に落屑を認める(図3)。手掌、足蹠に皮疹を認めることも多く、特に手掌の皮疹が消褪した後も、足蹠の皮疹を認めることもあるため、必ず問診とともに足趾に対しても、直接診察することが重要である。
関節リウマチでは、疼痛性胼胝を認める。扁平三角足変形で、MTP足底部に一致して、著明な疼痛を伴い歩行障害の原因となる。根本的には� ��骨性変形の矯正が必要であるが、まず装具にて対応、疼痛の軽減をはかる。除痛の為、切除等自己処置を行う場合も見受けられるが、人工関節置換術後の場合には、病巣感染の原因となり、適切な処置を行う必要がある。
その他、糜爛、潰瘍が悪性関節リウマチ等で認められる。血管炎が合併する症例も多く、時に皮膚の難治性壊死が合併する。漫然とした消毒処置は皮膚腫瘍合併の報告もある。その他、皮膚萎縮、緊張状態、浮腫、発汗状態、爪の異常等も検索する。乾癬症では爪の異常がみとめられる。関節リウマチ治療薬のDMARDによる爪の変色も認められる。
4)診断の進め方
外来診察時おいて、診察までの入室時の動作も、多くの情報を与えてくれる。問診にて、多関節炎を有している場合や病期が長期にわたる場合、訴える内容が多くなるため、まず現状で最も障害になっているポイントを確認し、次に、今までの経過、症状の変化を詳しく聴取する。投薬歴、手術歴も同時に簡略化して記載する。過去のより詳しい情報も前医に問い合わせ、その経過をまとめておく。薬剤見本、薬剤印刷物を用意しておくと、現用薬剤を確認するのが容易となる。他科の既往歴、家族歴も重要である。住環境、家屋構造も参考になる。障害手帳を持つ場合には、認定された時期、記載されている障害名と等級を記録しておく。
視診触診は、主訴を持つ関節から診察すること� �心理上重要であるが、リウマチ疾患の関節炎は、手指に発症するものも多く、まず手指の関節の腫脹、疼痛から始めることが多い。MP、,PIP、手関節が罹患しているか、DIP関節のみであるのかを観察する。関節リウマチの場合多くはMP,PIP、手関節の腫脹が認められる。他の膠原病による関節炎でも手指関節の腫脹は存在するが、慢性関節リウマチの腫脹とはやや趣が異なる。更に肘関節、肩関節も同時に検索する。更に、上肢の神経学的所見も検索しておく。次に下肢の関節であるが、脱衣動作も参考となる。股関節、膝関節はもちろん、脊椎の神経学的所見も診る。同様に関節可動域、疼痛出現状況に関して検索する。関節の腫脹状態、関節液の貯留、滑膜の増生、脚長差、大腿、並びに下腿周囲径を計測する。関節リウマチでは足趾も障 害を受ける。必ず、その変形状態や、胼胝を観察する必要がある。次に画像検索、血液生化学的検索を行なう。
血液生化学的検索
血沈、一般検血等に加え、必要に応じ、自己抗体、抗核抗体、補体、HLAタイプも検索する。肝機能、腎機能も全身疾患に伴う関節炎を除外するため、必要に応じ検索する。
関節液の検索
関節液の貯留を認める場合には、清潔操作に注意して穿刺を行ない、関節液の分析を行う。炎症性か、非炎症性か、更に色調、白血球数、結晶の存在等を検討する。また、化膿性関節炎を疑う症例では、細菌学的検索を行うが、嫌気性培養、抗酸菌培養、PCR検索も場合により併せて行う。
5)鑑別診断法
関節炎を示す疾患は非常に多岐にわたる。問診により、発症の契機� ��なった事実を聴取する。外傷の有無や、風邪症状等感染症の関与も重要である。大腿骨頭壊死では無症状に変性が進行した場合、軽微な外傷でも著しい疼痛により発症に気づくことがある。誘因が認められない場合、変形の生じた経過を詳しく聞く。先述の項目に対して、問診、視診、触診を行う。皮膚疾患、腸疾患、泌尿器科疾患、女性器疾患、肝疾患等も念頭に置き、同時にそれぞれの使用薬剤にも注意する。
6)主要疾患のポイント
慢性関節リウマチ
多くは、手指より発症するが、時に膝、肩、足趾より発症する。女性壮年期が発症のピークとされていたが、近年、発症年齢の高齢化が認められる。高齢発症症例では、男女の発症の差が少なくなる。多くは対称性に発症し、疼痛関節の移動を認める。初期は手指にお� ��て紡錘状の腫脹を示す。レ線上特徴的なbare areaの骨融解像を認め、骨形成性の変化は、炎症が沈静化した場合に時折認められる。
変形性関節症
関節軟骨の退行性変性で、軟骨および骨の増殖性変化を特徴とする。臨床症状は、運動痛、安静后のこわばり、関節腫脹、不安定化、可動域制限等の機能障害が認められている。肥満、骨密度の低下、外傷、遺伝的背景が関与する。レ線上でも変性像と同時に、骨形成性修復機転が確認できることが特徴である。血液検査所見では、2次性関節症の診断に重要である。関節液の分析も重要である。
強直性脊椎炎
初期の訴えは腰痛のことが多い。背部のこわばりも多く、関節外症状として、ブドウ膜炎の合併が認められる。HLAB27も参考となる。仙腸関節が障害されることが多く、肩関節、股関節の罹患が多い。40歳以降の発症はまれである。
乾癬性関節炎
主に末梢関節病変を伴 う。靭帯付着部炎が認められる。脊椎炎病変や仙腸関節炎も見られる。皮膚症状があれば診断は容易であるが、関節炎が先行する場合もあり注意を要す。皮膚病変の活動性と、関節炎は関連を示す。治療は、ステロイド剤、MTXが用いられている。
掌蹠膿疱性関節炎
掌蹠膿疱症に伴う関節炎である。手指のみでなく、足底も観察が必要である。鎖骨、第1肋骨の肥大を伴うこともある。胸鎖関節も冒されることが多く、病巣の確認には骨シンチが有用である。扁桃炎の関与も報告され、体内感染に対するアレルギーとも考えられている。1/3の症例に仙腸関節炎が合併する。血液検査で特徴的なものはなく、HLAも一定の傾向はない。
全身性エリテマトーデス
関節炎が認められるが、慢性関節リウマチの関節炎とは腫脹様式が� �なる。関節破壊も慢性関節リウマチとは異なり、大腿骨頭壊死の合併も多い。
神経病性関節症
Charcot関節症と呼ばれる。関節感覚障害により発症する。糖尿病、脊髄ろう、脊髄空洞症等、多くの神経疾患に合併する。レ線上、広範囲の進行性骨破壊を認めるが、その程度に比し疼痛が少ないのが特徴である。
痛風
尿酸1ナトリウム塩沈着により発症する。繰り返し出現する激しい疼痛を示す。関節軟骨、軟部組織への結晶の沈着、腎障害、尿路結石があげられる。
特徴的な罹患部位と疼痛の発現様式で診断は容易である。常に腎機能を念頭にいれる。
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