うつ病 ~イントロダクション パートV
ベック・Aが認知行動療法のうつ病に対する効果を科学的・統計学的に実証したことは、ある意味では画期的なことでした。 特定の精神療法(心理療法・カウンセリング)の効果を云々するには、まずはその特定の精神療法について、それがどういうやり方であるのか、極力あいまい性を排して、定義づけることが必要です。 うつ病に対する認知行動療法は、おそらくはこうした精神療法としては初めてに近いと思うのですが、精神療法のやり方をマニュアル化するという方法で定義づけを行ったのでした。
(精神療法のやり方をマニュアル化するなどということは、おそらくは、それ以前には考えられなかったことでした。 その意味で画期的であり、その後の精神療法の効果についての実証的研究では、ほとんどすべてこの「マニュアル化」が必須となったのです。)
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その頃、クラーマン・Gは、うつ病に対する抗うつ薬による再発・再燃予防治療の効果の実証的研究を行っていました。 クラーマンはせっかくなので、実際に世の中で普通に行われているうつ病治療と同じような状況で臨床研究をすべきだと考えていました。 抗うつ薬を処方される患者は、毎週毎週あししげく通院してきて、ただ抗うつ薬を処方して貰って帰るというだけではなかったのです。 良識ある精神科医は、このときに患者が置かれている状況を聞き、そこにある対人関係の葛藤に焦点づけ、問題点を整理し、患者が避けてしまっている問題に目を向けるように促し、患者が自分では認めがたく感じ否認してしまっている感情に対して共感的な理解を示していくことでその受容を促していく・・� �・そんな関わりをするのが普通だったのです。 こうした関わりは、通常「支持的精神療法 supportive psychotherapy」と呼ばれていました。 (「支持的精神療法」は、その対局に位置する「洞察指向精神療法 insight oriented psychotherapy, exploratory psychotherapy」≒「力動的精神療法」と違い、原則的には、治療者・患者関係に展開する両者の間の感情的な葛藤を話題の中心にすることはしませんし、無意識的な心の動きを解釈することもしませんし、過去の両親との関係などを話題にすることもしません。 話題にするのは、基本的に現在の「重要な他者」との対人関係での意識的・前意識的な葛藤であり、普段は目を背けているかもしれないけれども、意識して目を向ければ気づくことができる範囲の内容です。)
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ところが、この当時まで「支持的精神療法」はしっかりとした定義もなければ、マニュアル化されたものでもありませんでした。 その上、基本的な概念としての「支持的精神療法」は、その上位概念である「力動的精神療法」をしっかりと理解していないと使いこなせないという問題もありました。 これでは、治療効果を科学的に検証することなどできません。
そこで、クラーマンらは、ベックの「認知行動療法」のマニュアルをヒントにして、この「うつ病の患者に対して良識ある精神科医が普通に行っている支持的精神療法」をマニュアル化してみよう、としたのです。
こうしてできあがったのが、「対人関係療法 interpersonal therapy」のマニュアルでした。
「対人関係療法 interpersonal therapy; IPT」は、マニュアル化された時に、その体裁上、精神分析学の流れであるホーナイ、フロム・ライヒマン、サリバンなどの「対人関係学派」の用語を使って説明されることになりましたが、実際にはそんなことはどうでもよく、要するに(力動的精神療法の訓練を受けた)良識ある、普通の精神科医が、うつ病の患者に対して、普通に行っていた精神療法をマニュアル化しただけのものです。
マニュアルでは、特に力動的精神療法の訓練を受けていない人でも理解しやすいように、「うつ病」の患者が陥っていがちな対人関係の葛藤領域を、わかりやすく幾つかのものにタイプ分けし、その上でそれらの問題にどのように取り組んでいったらいいかを示しています。
(この辺がアメリカ的といえばアメリカ的なのですが、マニュアル化することで「名人芸」であった精神療法のやり方を誰でもそれなりにこなせるようにしたのです。 マクドナルドの接客のようなものですね。)
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対人関係療法ではわかりやすくするために、うつ病の人が陥っていがちな葛藤には、(1)喪失による悲しみ、(2)対人関係での不和、(3)対人関係役割の変更、(4)対人関係の欠乏、のどこかに、まあまあだいたいはタイプ分けしていくことができるだろうと考えています。
治療は、うつ病に対する認知行動療法と同じく、基本的に3ヶ月程度で終わる短期療法です。 そして、認知行動療法と同じように、対人関係療法も「何もしない場合」や「何でもない、ただのカウンセリング」を行った場合に比較して(その差は「どんぐりの背比べ」ではあっても)統計学的に有意により効果的であることが実証されたのでした。
そして、その後行われた幾つもの実証的研究の結果、うつ病に対する治療としては、認知行動療法と対人関係療法は、ほぼ同等に効果的であることが繰り返し示されてきたのでした。 (ただし、その効き方には微妙な差がありました。 効果の出方の早さの点では認知行動療法の方が若干優れていそうなのですが、効果の持続の点では対人関係療法の方が若干優れていそうなのです。 )
うつ病に対する認知行動療法も対人関係療法も、うつ病の症状や、その人が真現在陥ってしまっている問題そのものに働きかけ、「うつ病の悪循環」からできるだけ早く脱することを目的としています。
それに対してうつ病に対する「力動的精神療法 dynamic psychotherapy」は、うつ病になりやすい性格背景を治すことを目標にしています。 つまり、この治療法は、性格的な要因が相当に強いときにしか役立たないことになりますし、性格の治療という時間のかかることを行うために、「うつ病」の急性期の治療としては、どうしても認知行動療法や対人関係療法に比較して劣ります。
(「力動的精神療法」は、「支持的精神療法」と似ているのですが、「支持的精神療法」で行う介入技法に加えて、治療者・患者関係に展開する両者の間の感情的葛藤を積極的に扱うことや、無意識的な内容を扱うことが、大きな違いです。 つまり、「力動的精神療法」では、治療者と患者の関係にも何らかの感情的な葛藤がほぼ確実に生じてしまうことが想定されるほどに、基本的にすべての対人関係がまずくなってしまうような、相当な性格的な問題を抱えている患者が対象になる、ということでもあるのです。)
しかし、この点が非常に重要な点なのですが、いくらどのブランド名の精神療法が優れているとか劣っているといっても、うつ病の急性期の治療としては、どれも「どんぐりの背比べ」でしかないのです。
このことは、抗うつ薬の治験などで「当て馬」として容易される「プラセボ投与群」でも、それなりに順調に症状が軽減していくことでも示唆されます。
結局のところ、多くの「狭い意味のうつ病」は、それほど複雑な性格的背景のもとに生じているものでもないために、その人の回復を願ってくれている、その人の抱えている問題を一緒に考えてくれている、その人が問題だとは感じつつも手を出せなかった問題に対して手を出していくための少しの勇気を与えてくれる、誰か第三者がいてくれることで、回復が促進されるものらしい、ということは言えそうなのです。
(そして、この問題はいずれ扱いますが、複雑な性格的背景をもとに生じている抑うつ状態、つまりより慢性的な「抑うつ神経症」という問題の場合は、「狭い意味のうつ病」に対してあれだけ効果を実証できていた認知行動療法も対人関係療法も、あまり効果を発揮できないことが分かってもいるのです・・・。 この問題に対しては、それこそ性格を治すことを目標とした、別のタイプの治療が必要であろうことが示唆されています。)
参考書:
(1) Weissman MM. Cognitive therapy and interpersonal psychotherapy: 30 years later. Am J Psychiatry, 2007; 164: 693-696.
(2) Klerman GL, et al. "Interpersonal Psychotherapy of Depression" Basic Books, 1984.
(3) Culter JL, et al. Comparing cognitive behavior therapy, interpersonal psychotherapy, and psychodynamic psychotherapy. Am J Psychiatrym 2004; 161: 1567-1573.
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