2012年5月16日水曜日

「幼児期の亜鉛欠乏と自閉症スペクトラム障害との関連」論文への評価は低い - ベムのメモ帳Z


[自閉症]「幼児期の亜鉛欠乏と自閉症スペクトラム障害との関連」論文への評価は低い

Nature Japanのサイトに「注目の論文」として、「幼児期の亜鉛欠乏が、自閉症の発症にエピジェネティックに関与する可能性と、栄養学的な取り組みによって、その治療と予防に対して新たな希望がもたらされる可能性を示唆している」という論文を紹介しています。

■幼児期の亜鉛欠乏:自閉症スペクトラム障害との関連-Nature Japan

Googleニュースが「自閉症」のキーワードで拾ってくるのでご覧になった自閉症関係者も少なくないと思います。著者4名のうち3名は、自閉症関連でしばしばネット広告を目にする「ら・べるびぃ予防医学研究所」の人たちであるとしています。この「研究所」は毛髪検査などをしてサプリメントの摂取やキレート療法、デトックスなどを勧めている、要するに一言でいえば代替医療の業者です。

こんな怪しい業者のなんだか胡散臭そうな論文が、査読の厳しい権威ある科学誌Natureに!?と一瞬思ったのですが、よく見るとわかるとおり掲載されたのは「本物」のNatureではなく、Scientific Reportsという姉妹誌。この姉妹誌は査読がゆるいことで有名なのだそうです。


関節痛はありません炎症

■NatureがPLoS ONEみたいなオープンアクセス誌を創刊してた-蝉コロン

でも、「ら・べるびぃ」側はNatureのお墨付きを得たと言って宣伝するんじゃないの?ということが懸念されるわけですが、案の定、そうなっています。もともとそういう意図を持ってやっているのでしょう。

■自閉症・発達障害 原因の一つ-ら・べるびぃ予防医学研究所



査読のなかったりゆるかったりする専門誌に論文を掲載することでアリバイ作りをするというのは代替医療業者の常套手段のようになっているようで、そういったことを問題視する意味が含まれているのかどうかわかりませんが、おそらく論文掲載についてメディアが大袈裟に報道することを懸念して、サイエンスメディアセンターが論文に関する専門家の評価を取って公開しています。

■亜鉛欠乏と児童の自閉症スペクトラム障害の関連について-Science Media Centre of Japan

山末 英典(やますえ ひでのり)
准教授、東京大学医学部附属病院精神神経科


骨梗塞骨折

 本研究では、2000名近くの自閉症スペクトラム障害と診断された児童で、血液中よりも安定と考えられている毛髪中の亜鉛を測定し、自閉症スペクトラム障害児では亜鉛欠乏状態がより高頻度に認められることを見出している。そして、欠乏している亜鉛を投与によって補うことにより、自閉症スペクトラム障害の治療的効果が期待される可能性を示唆している。これらの点から、本報告は、大変興味深い点を含んでいる。

 しかし、本研究は横断的な検討であるため、亜鉛低値が自閉症スペクトラム障害の原因なのか結果なのかが不明で、今後、新生児コホートの様な縦断研究によるこの点の検証が必要になる。また、診断が困難とされる2歳未満の症例も含みながら診断の� �準や方法を統制していない本研究結果が国際的に妥当なものとして受け入れられる為には、臨床家が行った診断について、国際的に妥当とされる基準と方法を用いて確認することが必要であると思われる。


ドロシー・ビシップ (Dorothy Bishop)
英国・オクスフォード大学 発達神経心理学教授


横紋筋融解症のプラバスタチンエリスロマイシン貧血白血球減少症

 今回の研究の問題点の一つは、自閉症の子どものみの亜鉛の含量を測っており、子ども全般については、すでに存在するデータを基に亜鉛の含量を計算していることです。この結果の信頼性を高めるには、自閉症の子どもの髪の毛内に含まれている亜鉛の含量を、年齢や育った環境を一致させた対照群の子ども達の含量と比べることが必要です。そしてその計測も、研究者自身にもどちらの毛髪が自閉症の子どものグループでどちらが対照群であるか分からない状態(二重盲検法)で行う必要があるでしょう。

 さらに将来的に、もし毛髪の亜鉛含有量に違いがあることが確かめられても、これが自閉症の原因なのか、それ とも自閉症の影響による食生活の異常の結果の一つなのかは確実に言えません。自閉症の子どもは限られたものしか食べないケースが多く、食べものではないものを口に入れてしまう子供もいます。

科学者らしい慎重な表現を使っていますが、要するに「今回の研究の方法はまったく体をなしていないので信頼に値しない」という意味合いに受け取っていいかと思います。対照群が設定されていなかったりASDの診断に標準化された基準や方法を用いていなかったりと、この種の研究の基本的な部分に欠陥があるようです。


つまり、今回の研究では自閉症児に亜鉛欠乏があるかどうかまったくわからない、百歩譲って仮に亜鉛欠乏があると仮定してみたところで、それが自閉症発症の原因なのか結果なのかわからない、というところかと思います。

しかし業者側はそのような評価などおかまいなしに論文が掲載された事実をネタに宣伝するでしょう。気を付けたいところですね。

<関連エントリ>

■毛髪ミネラル検査の実態



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